食器の共有でむし歯は移る?
2025年04月14日(月)
みなさんこんにちは。歯科医師の田中です。
本日は、患者様から頂いたむし歯に関する素朴な疑問を解決させていただきます!
Q. 親から子どもへのう蝕原因菌(むし歯菌)の感染を予防するために、親とスプーンやコップなどの食器の共有を避けた方がいいでしょうか?
A .2023年8月31日に日本口腔衛生学会より以下の提言がありました。下に記載しておきますが、簡単にまとめますと
①親からの口腔細菌感染は食器の共有の前から起こっている
② う蝕の原因菌は、ミュータンスレンサ球菌だけではない
③ 食器の共有に気を付けていても、子どものう蝕に差はなかった
今回の発表を受けて、むし歯予防のための子どもとの食器の共有を避けることは、あまり気にしすぎることはない、とお話するようにしています。むし歯は様々な要因でできることから、食具を共有しないことに限らず、養育者も子どもと一緒にきちんと歯科健診を受けたり、一緒に食事を楽しむことが、子どものむし歯を予防する上で大切であると考えています。
以下、口腔衛生学会の声明より引用
以前から、親から子どもへのう蝕原因菌の感染を予防するために、親とスプーンやコップなどの食器の共有を避けるようにとの情報が広がっています。しかし、食器の共有をしないことでう蝕予防できるということの科学的根拠は必ずしも強いものではありません。最近、親の唾液に接触することが子どものアレルギーを予防する可能性を示す研究内容[1]が報道されました。それに付随し、親の唾液からう蝕の原因になるミュータンスレンサ球菌が子どもに感染するリスクを高めると報道で触れられていますので、情報発信をいたします。
親からの口腔細菌感染は食器の共有の前から起こっている
最近の研究で、生後4か月に母親の口腔細菌が子どもに伝播していることが確認されています[2]。食器の共有は離乳食開始時期の生後5~6か月頃から始まりますが、それ以前から親から子どもに口腔細菌は感染しているのです。日々の親子のスキンシップを通して子どもは親の唾液に接触しますので、食器の共有を避けるなどの方法で口腔細菌の感染を防ぐことを気にしすぎる必要はありません。
う蝕の原因菌は、ミュータンスレンサ球菌だけではない
親のミュータンスレンサ球菌が子どもに感染することは複数の研究で確認されています[3]。しかし口腔内には数百種以上の細菌が存在し[4]、ミュータンスレンサ球菌だけでなく多くの口腔細菌が酸を産生し、う蝕の原因となりますので、ミュータンス連鎖球菌だけがう蝕の原因菌ではありません [4, 5]。
食器の共有に気を付けていても、子どものう蝕に差はなかった
う蝕は砂糖摂取や歯みがきなど様々な要因で起こるため、食器の共有と子どものう蝕の関連を調べる際にはそうした要因を考慮する必要があります。う蝕に関連する複数の要因を調べた日本の研究では、3歳児において親との食器共有とう蝕との関連性は認められていません[6]。
子どものう蝕予防のために
親から子どもに口腔細菌が伝播したとしても、砂糖の摂取を控え、親が毎日仕上げみがきを行って歯垢を除去し、またフッ化物を利用することでう蝕を予防することができます。特に、フッ化物の利用は多くの論文でう蝕予防効果が確認されている方法です。フッ化物配合歯磨剤の利用方法は 4 学会合同の推奨方法が出されていますのでご参照ください[7]。
今回は、保護者の方からよくいただく素朴な疑問にお答えしました。
小さなことでもご質問があればお答えしますのでお気軽にご質問ください。